1 概観

 ボリス・チャイコフスキーは,1925年生まれ(1996年没)のロシアの作曲家です。1950年代から1990年代,ソ連時代の後半に活躍しました。ミャスコフスキーやショスタコーヴィチといったソヴィエト作曲界の重鎮に師事していますが,特に,1960年代以降は,まったく独自の音楽語法を確立していきます。ソ連時代,国内では評価が高かったようですが,海外ではあまり知られていませんでした。しかし,没後は徐々にその音楽が知られるようになり,再評価が進んでいます。

 ボリス・チャイコフスキーの音楽の魅力は,悲壮感と優しさが混じったようなロシアの伝統的なエレジーを現代的な技法の中に組み込み、独特の世界を作り上げているところにあると思います。現代的な響きでありながら感傷的な印象すら受けます。ショスタコーヴィチ以上にロシア音楽の伝統の本流に位置するようにも思います。

 

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主要作品表

1947 
交響曲第1番
1953
ピアノ・トリオ
シンフォニエッタ
1954
弦楽四重奏曲第1番
イギリスの主題によるカプリッチョ
1955
弦楽三重奏曲
1957
チェロ・ソナタ
クラリネット協奏曲
1959
ヴァイオリン・ソナタ
1960
無伴奏チェロ・ソナタ
1961
弦楽四重奏曲第2番
1962
ピアノ五重奏曲
1964
チェロ協奏曲
1966
パルティータ(チェロと室内楽のための)
1967
交響曲第2番
室内交響曲
弦楽四重奏曲第3番
1969
ヴァイオリン協奏曲
1971
ピアノ協奏曲
1972
弦楽四重奏曲第4番
1973
主題と8つの変奏
1974
カンタータ「黄道十二宮」
弦楽四重奏曲第5番
1976
弦楽四重奏曲第6番
1980
セバストポリ交響曲
Last Spring
1984
シベリアの風
未成年
1987
管弦楽のための音楽
1990
六重奏曲(管楽器とハープのための)
1993
ハープを伴った交響曲
1996
鐘(管弦楽のための前奏曲)


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生涯

 ボリス・チャイコフスキー(ピョートル・イリイチとは血縁関係はない)は,1925年9月10日,モスクワで生まれました。父親は統計学と経済地理学の専門家で,独学でヴァイオリンを弾く人でした。母親は医者で,母親が強く音楽家への道を勧めました。両親とも才能のある人で,仕事を能力を持ってこなすだけでなく,文学や芸術の知識があり,何よりも熱烈に音楽を愛していました。B.チャイコフスキーの道徳的な考えは, 両親から受け継いだものです。

 彼は9歳の時にグネーシン音楽学校に入り,初めはアレクサンドラ・ゴロヴィナ,エレナ・F・グネーシナに学びました。作曲の最初の先生は,エフゲニー・メスナーでした。その後B.チャイコフスキーは,グネーシン音楽学校の特別過程にすすみ,ヴィサリオン・シェバリーン,イゴール・スポソビン,A.ムトリーに学びました。

1943年,モスクワ音楽院に進み,レフ・オボーリンにピアノを学ぶとともに,ヴィサリオン・シェバリーン,ドミトリ・ショスタコーヴィチ,ニコライ・ミャスコフスキーといった著名な教師に作曲を学びまた。1948年の反形式主義運動の時,ショスタコーヴィチは教職から追放され,彼の生徒は汚染されていると看做されました。 しかし、B.チャイコフスキーは,ショスタコーヴィチと関係を断つことを拒否し,これは彼の筋の通った強い性格を示すものです。

 B.チャイコフスキーは 1949年にモスクワ音楽院を卒業しました。ニコライ・ミャスコフスキーはすでに1949年の段階で「B.チャイコフスキーは,すぐれた作曲技術と卓越した個性的な想像力をもった才能ある若い作曲家だ」と述べています。

1952年、ラジオ局の仕事を辞め,作曲のみを生計の手段として歩み始めます。委嘱作品やテレビ,ラジオ,劇,映画のための音楽の作曲をはじめます。

B.チャイコフスキーは,1969年にソ連国家賞(交響曲第2番)を受賞し,1985年には,人民芸術家に選ばれました。

 晩年(1989年~1996年),ロシア音楽アカデミーの作曲科の教授を務めた。スタニスラフ・プロヒーディン,ユーリー・アブドーコフ,ラーデ・ラドヴィチ,アレクサンダー・フリスチャノフ, エレナ・アスタフィエワとヤコフ・クーロチキンがB. チャイコフスキーのクラスの生徒でした。

1996年2月7日にモスクワで死去しました。

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ヴェクレのプラッゲなど

2L25ホルンのための作品集
プラッゲ ラーガ ユニコーン ホルンソナタ第4番

ベルゲ 三重奏曲 (3本のホルンのための)
マドセン ホルン三重奏曲
クヴァンダル 賛美歌の調べ
クリアフィールド ハヤブサの目の中に

ヴェクレ、マッティンセン、フォード (hr) プラッゲ、アスポース、クリアフィールド (p)  スポンベルグ (vn)

2Lからリリースされたヴェクレのホルン作品集。プラッゲがメインだが、ヴァラエティに富んでいる。

プラッゲ作品のうち、「ラーガ」は2本のホルンとピアノのための作品で、プラッゲらしい怪しげな響きが面白い。「ユニコーン」はホルン独奏曲。「ホルン・ソナタ」は、中世の旋律をもとにした曲。なんともいえない浮遊感は、プラッゲ・ワールドというほかないか。
ベルゲは、1929年生まれのノルウェーの作曲家。「三重奏曲」は平易で楽しい曲。
マドセンのトリオは、ブラームスのホルン・トリオと同じ編成。この作曲家らしい、伸びやかで分かりやすいメロディが魅力的。クヴァンダルのホルン独奏作品は、どことなく懐かしい響き。
クリアフィールドは、1960年生まれのアメリカの作曲家。2本のホルンとピアノのための作品で、2本のホルンの交錯する響きを生かしたかっこいい作品。

マッティンセン、フォードともヴェクレのお弟子さんのようだが、前者はオスロ・フィルの上吹き、後者はイェテボリの首席というから、現代北欧を代表する奏者の揃い踏み。響きの同質性も曲とうまくあっており、楽しいアルバムに仕上がっている。

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ルーディンのボリ・チャイ

modern_russianボリス・チャイコフスキー チェロ・ソナタ
クリモフ 無伴奏チェロ組曲
プロクディン チェロとピアノのための2つの前奏曲
プラッソロワ チェロとピアノのための二重奏曲
ゴロヴィン 無伴奏チェロのための悲歌

ルーディン(Vc) ブティル、プロクディン、プラッソロワ(P)

Modern Russian Works for Celloと題されたこのアルバム、ルーディンがボリチャイのソナタを弾いているということで探し回っていたがようやく入手できた。

まずは、お目当てのボリチャイのソナタ。掛け値なしの名演である。チェロもピアノもスケールが大きい。スケールの大きさにも関わらず、繊細な味わいにも欠けるところはない。第1楽章、古典的なソナタ形式の展開部のショスタコ張りの手に汗握る盛り上がり、そして再現部における優しい歌。感涙ものである。第2楽章の変奏曲風の緩徐楽章の悲しい歌も気品とスケールの大きさを兼ね備える。第3楽章の冒頭の高音も美しいし、その後の細かい動機のまとめ上げ方も、申し分ない。

ちょっと興奮してしまったが、ボリチャイ以外も、いずれも素晴らしい作品。この中では、ゴロヴィン(1950-)が年長。そういえば、ゴロヴィンは、ルディンのミャスコフスキーで、指揮を担当していた。グネーシン音楽院で最晩年のボリチャイとゴロヴィンが教鞭をとっていたころの生徒が、クリモフ(1970-)、プロクディン(1970-)、プラッソロワ(1970-)の3人という関係。そのせいか、これらの作品には、ボリチャイ作品も含めて、共通した空気が感じられる。いずれも音楽に対する真摯な姿勢が好ましい。これまたルーディンの真摯なチェロの音色で、曲が最大限に生かされている。ロシアの現代の作曲家というと、何か奇をてらったような感じの曲を書く人が有名になることが多いような気もするが、このアルバムに収録された作曲家達のように、真面目なショスタコ・ボリチャイ路線の伝統もきちんと受け継がれているのだなと感じた。

今年買ったCDの中でも、指折りの一枚になること間違いない。

なお、Rudinですが、「ルーディン」の表記が一般的なようですので、これまでの「ルディン」から変更します。そういえば、ツルゲーネフの「ルージン」という小説を大昔読んだことを思い出したが、これもRudinかな?

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クリスマス物語

シュッツ クリスマス物語 ラテン・マニフィカート
ツェベレイ指揮 ミュンヘン・レジデンツ管

処分品回収シリーズ。

シュッツ(1585-1627)は、17世紀ドイツのプロテスタント教会音楽最大の作曲家とのことである。「ドイツの伝統的合唱ポリフォニーと北イタリアの新しいコンチェルティーノ様式やモノディ様式を高い次元で融合し、バッハやヘンデルに至るバロック音楽の出発点になった。」と、まあ、よく分からないが、偉い人なのだろう。

「クリスマス物語」は、シュッツ作品の中でも最も愛されている曲の一つ。独唱・合唱と器楽が交互に演奏される形式で、キリスト誕生の物語が語られる。とても分かりやすく、聴きやすい曲だ。美しいメロディと、オルガンを含む簡潔な器楽伴奏。教会で聴くとなかなか感動しそうだ。「ラテン・マニフィカート」は、器楽がもう少し前面に出てくるが、趣向は同じ。なかなか色彩的である。

このあたりも、もう少し音楽史全体を把握してから聴き直すと面白そうだ。

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バウマンの「狩りの交響曲」

L.モーツァルト 狩の交響曲 2本のホルンのための協奏曲
ムーレ 合奏用組曲集第2組曲 ファッシュ 協奏曲「狩」

バウマン(Hr) ブラウン指揮アカデミー室内管

処分品回収シリーズ。

20世紀を代表するホルン奏者の一人、ヘルマン・バウマン。その魅力は、なんといっても明るく伸びやかな音色。そのバウマンが「狩り」をテーマにした古典派以前の曲を集めた1枚。ホルン奏者の中で、「狩」のイメージに合うのは、やはりこの人だろうか。1986年録音。

この4曲の中では、父モーツァルトの2本のホルンのための協奏曲が楽しめた。特に、セカンドホルンが活躍するなかなかの佳品。これはなんじゃ、というのが、ムーレの作品。ここでバウマンは、5人の若手ホルン吹きを率い、「狩猟ホルン」(?)なる楽器を用いているが、めちゃくちゃである。音程なんてあったものじゃないし、音はバリバリ、はっきり言って汚い。なにをとち狂ってしまったのだろうか。まあ、笑って聴くものだろう。父モーツァルトの狩りの交響曲では、本物の犬の鳴き声が収録されており、はじめて聴くときにはびっくりするので注意。

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コンチェルト・ヴェネツィアーノ

028947489528ヴィヴァルディ ヴァイオリンと2群の合奏の協奏曲RV.583 ヴァイオリン協奏曲RV.278
ロカテッリ ヴァイオリン協奏曲作品3-9
タルティーニ ヴァイオリン協奏曲D.96

カルミニョーラ(Vn) マルコン指揮ヴェニス・バロック管弦楽団

気づかぬうちに、ブログ開設から1年が経過していた。振り返ってみると、1年前は毎日ミャスコフスキーばかり聴いていたようだ。現在は、古楽を囓るのがなかなか楽しい。ということで、名手の呼び声高いカルミニョーラの新譜に手を出してみた。

確かに、この人、うまい。ヴァイオリンって、ここまで出来るの?というほど、あらゆる音符を見事に音にしていく。艶やかで明るい音色も気持ちいい。だけど、なんというか、これは音楽というより曲芸なんだよなって感じがする。コンチェルトなんだから曲芸の要素はあって当然なんだけど、音楽を犠牲にした曲芸は、少なくともCDで聴いている限りでは、なんとなくしらけてきてしまう。この演奏は、そこまでではないけど、感心はするけど感動はしないというか…。

それから伴奏、この人とこのオケ、有名どころなんですか?ちょっとユルくありませんか?私の好みからはちょっと外れます。

選曲は、ヴィヴァルディ、ロカテッリ、タルティーニというイタリア・バロックの大御所を集めたものですが、いずれもヴァイオリニストのための作曲家といった感じは否めないような気がする。それを超えてくる心地よさが感じられない。

ということで、このCDもしばらく熟成させてみます。
まあ、イタリアだからこんなものかな、とも思いますが、もっとシャキシャキ、キビキビしていて、それでいてガツガツしていないようなヴィヴァルディ、なんてのありませんか?


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ユーリ・ファリク

ファリク チェロと管弦楽のためのコンチェルト・デラ・パッシオーネ
管弦楽のための協奏曲第2番「交響的練習曲」
グートマン(vc) ドミトリエフ指揮 サンクト・ペテルブルク・フィル

ユーリ・アレクサンドロヴィチ・ファリクという作曲家の作品集。演奏者の豪華さに惹かれて買ってみた。レーベルは、最近よくお世話になっているNorthern Flowers

ファリクは、1936年生まれの作曲家。サンクトペテルブルクの音楽院の教授をしているとのことで、この演奏者を集められるということは、おそらくサンクトペテルブルク作曲界の大御所的存在なのだろう。soviet composerのページによると、チェリストでもあるらしい。

曲であるが、アイディアはなかなか面白い。はじめのチェロとオーケストラのための作品(1988)は、4楽章構成になっていて、それぞれ、ラクリモサやらリベラメなんて表題が付けられていて、要するに、チェロ協奏曲とレクイエムを融合させた作品ということ。管弦楽のための協奏曲(1977)も4楽章構成。これにも第1楽章「フォルテ」第2楽章「ピアノ」なんて表題がついていて、曲の性格をはっきりと明示してくれている。

ただ肝心の音であるが、私には、いまひとつピンと来なかった。旧ソ連系の悲劇的な音響。静かなところとうるさいところがはっきりしている点ではカンチェリあたりも思い起こさせるが、宗教的な雰囲気は薄く、かなり抽象的な無味乾燥系。管弦楽のための協奏曲の終楽章など、オケがもの凄い疾走を聴かせてくれるのであるが、いまひとつ迫ってこない。真面目な音楽ではあるし、それほど分かりにくいわけではないが、深いところまで少し届いていないといった感じか。

といういことで、しばらく寝かせておくことにします。

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バッタリア2

abcd139-A Battle and no Battle (イギリスのバロック音楽集)
バッタリア

フィンランドの古楽器クループ・バッタリアの2枚目のCD。Vol2とのクレジットもあるので、前回の1枚の続編だろう。こちらは、17世紀イギリスのバロック音楽が集められている。こちらに登場する作曲家は、以下の通り。

ジョン・ブル (c.1562-1628)
ウィリアムズ・ローズ (1602-1645)
クリストファー・シンプソン (1605-1669)
マシュー・ロック (c.1621-1677)
ジョン・ウィルソン (1595-1674) 
ヘンリー・パーセル (1659-1695) 
トマス・ボルツァー (1630-1663)

この中では、パーセルが有名か。こちらは、チェンバロ曲あり、ヴァイオリン・ソロ曲あり、リュート・ソロ曲あり、もちろん合奏曲ありと実に多彩な選曲。曲の内容も多彩で、とても落ち着いた雰囲気の曲もある一方、名人芸的な大見得を切るような作品もある。イタリアのバロック音楽集と比べると全体的には落ち着いた雰囲気が感じられる。演奏は、かなり自由に、工夫されているのではないかと思う。リュート(?)が弦を強く弾いてバチバチといった打楽器のような効果を聴かせたり、拍子をわざと外したフリージャズ風(?)のところもあったり。最初から最後まで、飽きることなく楽しく聴けた。中でも、ロック作品(the Broken Consort,part1)は、オリジナリティ溢れる合奏曲で、とても気に入った。マシュー・ロック、これからは注目。

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