オイストラフのウィーン・ライブ(モーツァルト,ショスタコーヴィチ)

Orfeor736081モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第5番 ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第1番
オイストラフ(vn) ムラヴィンスキー指揮 レニングラード・フィル
ORFEO DOR ORFEOR736081

21世紀にもなってこんなものが見つかるのだから,何とも不思議なもの。1956年のムラヴィンスキー・ウィーン公演のライブ。

まずは,モーツァルト。実は私は,ムラヴィンスキーのモーツァルトを偏愛しているのだが,はっきり言ってまともな録音状態のものが少ないので,こうした協奏曲の伴奏も貴重。きちんとしたテンポ感を刻みながら,きびきびと音量や表情を出し入れしていく様はムラヴィンスキー・マジックとしか言いようがない。オイストラフの輝かしい音色は,言わずもがな。最上級のモーツァルト。

そしてショスタコーヴィチ。これについては,同年の同じコンビのメロディア・スタジオ盤が語りつくされている感があって,今回の演奏もほぼ同じ内容(ライブだけあって,カデンツァなどは一回り熱いし,フィナーレは恐ろしく速い)で,最強の演奏であることは言うまでもない。録音の鮮明さはこちらの方が上で,オイストラフの音色の豊かさを堪能できるが,メロディア盤に比べて暖かめな音とソロのクローズアップが少し過度に感じられる点で,好みが分かれるか。メロディア盤の音割れまでが愛しいほど刷り込まれてしまっている私のような人種にとっては,断然メロディア盤を取りたいが,これは参考にしてはいけない意見。

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ボリス・チャイコフスキーの弦楽四重奏曲

Nfpma9964ボリス・チャイコフスキー 弦楽四重奏曲全集(1番~6番)
Northern Flowers NFPMA9964

全国多分10人くらいのボリチャイ・ファンが一日千秋の思いで待っていたボリチャイ・カルテット全集,ようやく到着。

第1番は,1954年の作品。典型的な前期ボリチャイのスタイルで,定石通りの急緩急の3楽章構成とロシア民謡的な主題の明快で楽しい作品。第2楽章の胸の締め付けられるような美しい旋律と対位法的な4つの楽器の対話は,聴きもの。第3楽章の控えめなユーモアのセンスもたまらない。第2番は,1961年の作品。初期から中期への過渡期的な作品か。ソナタ形式の第1楽章にスケルツォと緩徐楽章をはさんでフィナーレへ引き継がれる伝統的な分かりやすい4楽章構成だが,第1番に比べると主題がかなり抽象的になっている。全編に貫かれている不機嫌な焦燥感が不気味。救いのない鬱屈した作品。第3番は,1967年の作品。交響曲第2番と同じ年の作品で,完全にボリチャイ独自の語法で書かれた作品。ヒタヒタとした刻みが不気味な第1楽章,チェロとヴァイオリンのレチタティーヴォからなる第2楽章,静謐な響きが連続する第3楽章と第4楽章,わずかに光の差し込んでくる第5楽章,それまでの響きがコラージュのように交錯する第6楽章。この作品は,1964年の”While The Front Is Defensive”という映画のサウンドトラックをもとに構成されたという。悲劇的な響きはそのためか。全6楽章ほぼ全編が緩徐楽章の静謐な響きで満たされているこの曲は,ショスタコーヴィチの第15番の弦楽四重奏曲(1974)に大きな影響を与えていることも指摘されている。

第4番は,1972年の作品。力強いリズム主題が万華鏡のように変容されていく,いかにもボリチャイらしい第1楽章。第2楽章の透明で美しいモノローグのあと突然あらわれるリズミカルで愉快なテーマは過去を懐かしむような不思議な気分に囚われる。第3楽章は,ゆったりしたテンポで書かれた緊張感の強いフィナーレ。後年のセバストポリ交響曲(1980)を想起させるヴァイオリンの分散和音の動きの中に第1楽章と第2楽章の断片を響かせながら幕を閉じる。第5番は,1974年の作品。続く第6番とともに15分ほどの単一楽章の作品だが,その中には多楽章的な要素が盛り込まれており,この単一楽章化はちょうどシベリウスの第7番の交響曲を連想させる。冒頭の強烈な和音と,力強い伴奏音型,すぐにヴァイオリンによって提示される歌謡的な下降音型を中心に,ノスタルジックな響きが次々と展開していく。第6番は,1976年の作品。冒頭の力強いテーマとコラール風に奏されるエレジーとの2つのテーマが交錯する。第5番と規模も近い単一楽章の曲だが,よりダイナミックで彫りが深い。全てを断ち切るかのような力強い終止も印象的。

6曲ともボリチャイの個性が存分に発揮された優れた作品ばかり。特に後半3曲は,前人未踏の領域に達している傑作群。演奏も,おそらく今後もこれらの曲のスタンダードとなっていくであろう,共感に溢れた充実したもの。必聴ものです。

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イワーシキンのシュニトケ

Chan234シュニトケ チェロ協奏曲第1番 第2番 チェロ・ソナタ第1番 第2番 合奏協奏曲第2番
イワーシキン(vc) I.シュニトケ(p) グリンデンコ(vn) ポリャンスキー指揮 ロシア国立交響楽団
Chandos CHAN241-39

シュニトケのチェロのための作品を集めたもの。「シュニトケとの対話」の著者であるイワーシキンをはじめ,シュニトケと親密な関係を持っていた演奏家によるもの(ポリャンスキーに関しては「対話」の中で皮肉られていたような気もするが)。

チェロ・ソナタ第1番(1978)は,急緩急の古典的な3つの楽章の中に現代的ともロマン派的ともとれるノスタルジックな雰囲気を閉じこめた名作。合奏協奏曲第2番(1982)は,ヴァイオリンとチェロの二重協奏曲の形式をとる大オーケストラ(エレキギターまで加わる)のための作品で,カガン・グートマン夫妻に献呈された。バロック風のメロディを基調としており,時に多様式主義と言われるシュニトケらしい作品。チェロ協奏曲第1番(1985)は,心臓発作で死の淵を彷徨った後の最初の作品として重要。最終楽章の感動的なパッサカリアにはどんな思いが込められているのか。シュニトケの傑作の一つだろう。チェロ協奏曲第2番(1990)とチェロ・ソナタ第2番(1994)は,いずれもロストロポーヴィチに捧げられている。第2番の協奏曲は,第1番をさらに深めたような曲想で,この曲も最終楽章はパッサカリア。ソナタ第2番は,5楽章形式の散文的な色彩の強い曲。

一時のシュニトケ・ブームはすぎさり,演奏会で取り上げられたり,新録音が出たりすることも少なくなって,私自身もまとめてきちんと聴くのは久しぶりだが,やはり良い曲を残してくれている。まだまだいろいろな演奏家に取り上げてもらいたいものだ。

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キタエンコのプロコフィエフ

Pe135プロコフィエフ 交響曲全集
キタエンコ指揮 ケルン・グェルツィニッヒ管弦楽団
Phoenix Edition PE135

NMLに最近登録されたキタエンコのショスタコーヴィチ全集をつまみ聴きしたところ,どれも高水準でびっくり。ということで,新譜のプロコフィエフ全集に手を出してみた。

キタエンコの音楽づくりは,何といっても聴かせ上手。オーケストラの美しい音を気持ちよく響かせ,バランスをうまく整えている。こうしたタイプはとかく軽薄な音楽になりがちだが,細かいところまで目が行き届いているのと,低音部をしっかり引き締めているので,むしろ知的な印象。それからここぞという場面でトロンボーンを中心にした爆発力にも欠けていない。プロコフィエフの交響曲とは相性がいいようだ。中でも7番の天国的な美しさには脱帽。ほかに,4番(改訂版),6番あたりが素晴らしい。2番や3番で暴力的音響を期待すると少し肩すかしだが,最上級の録音と相まって,楽譜のすべての音がきちんと聴こえてくるので,発見は非常に多いはず。間違いなく,必聴の全集の仲間入りだろう。

モスクワ・フィル時代はパッとしないイメージだったキタエンコが,西側の高性能オケを手に入れて水を得た魚といった趣。ちょっと注目。

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シチェドリンの近作

H93195シチェドリン ピアノ・テルツェット 3つの楽しい小品 チェロ・ソナタ
D.シトコヴェツキー(vn) ゲリンガス(vc) ネムツォフ,シチェドリン(p)
Haenssler CD.93.195

シチェドリンの室内楽曲の近作を集めた1枚。

旧ソ連作曲界の重鎮であったシチェドリン(1932-)だが,まだまだ元気で頑張っているらしく,このCDでも達者なピアノも聴ける。作曲ももちろん元気に続けていて,このCDでは最近の作品を聴くことができる。ピアノ・テルツェットは,1995年の作品で,ピアノ・トリオの編成。「草上の昼食」「ロシア風パレード」と表題のついた対照的な2楽章からなる作品で,名手らによる演奏効果を楽しむような面白い作品。楽しい小品は,ピアノ小品の旧作から3曲を選んで,ピアノ・トリオに編曲したもの。シチェドリンのユーモラスな面が聴ける。最後のチェロ・ソナタ(1997)が,シリアスな作品で,例えば2楽章の虚無的な雰囲気,3楽章の悲痛な歌,美しい響きなど,聴き所は多い。

さすがはシチェドリンと思わせるハイレベルな作品集なのだが,もう1ランク突き抜ける凄い曲を書いて欲しいなあ,と思わなくもない。最晩年のショスタコとは言わないまでも,最晩年のシュニトケのレベルくらいには行って欲しい。この1枚だけで判断するのも失礼な話だけど,「アンナ・カレーニナ」が大好きな私は,まだまだ期待していますよ(本人に届くはずもないが)。

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ミャスコフスキーの弦楽四重奏曲(12番,13番)

Nfpma9954ミャスコフスキー 弦楽四重奏曲第12番 第13番
タネーエフ四重奏団
Northern Flowers NF/PMA9954

タネーエフ四重奏団がソ連時代に録音したミャスコフスキーの弦楽四重奏曲全集がNorthern Flowersから復刻になっている。試しに買ってみた1枚。

ミャスコフスキーの弦楽四重奏曲は,全部で13曲で,ここに収められた2曲が最後の2曲ということになる。いずれもミャスコフスキーの最晩年の作品で,この時期のミャスコフスキーらしく,多少屈折してはいるが概して平明な作風。第12番は1947年の作品(何故かカバレフスキーに捧げられている)。第1楽章は,序奏こそ不気味だが主部は優しげなロシア風の主題の型どおりのソナタ形式の楽章。第2楽章のスケルツォは小洒落た響きの主部と怪しげな中間部との対比が面白い幻想的な楽章。第3楽章もなかなか充実したロシアン・エレジー。後半はちょっと感動的だったりする。第4楽章のロンド・ソナタ。行進曲調の主題がちょっと浮き気味(交響曲第6番の終楽章を思い起こさせる)なところがいかにもミャスだが,まあ許容範囲。曲全体を通して,気負ったところがなく,ミャスコフスキーの良いところが素直に表れている。第13番は1949年,亡くなる前年の作品。やはり型どおりのソナタ形式楽章ではじまる。冒頭のミャス節はファンにはたまらない。かわいらしい第2主題もなかなかよい。第2楽章は,急緩急のスケルツォだが,急の部分は格好いいし,中間部の不安な気分も面白い。第3楽章は,コラール風の感動的なテーマで,交響曲第27番のあの美しい第2楽章を思い起こさせる。終楽章は,決然とした主題のロンド・ソナタで副主題も含めて格好良くまとまっている。第12番とは規模も構成もほぼ同じで,姉妹作といった感じか。両曲ともミャスコフスキー円熟期の充実作品だ。

さて,全曲揃えたくなってきたが,どうしようか…。ヴェネさんとかブリさんとか激安箱にしてくれたりしませんか?

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ヴァインベルクの協奏曲集

Chsa5064ヴァインベルク チェロと管弦楽のための「幻想曲」 フルート協奏曲第1番,第2番 クラリネット協奏曲
グンナルソン(vc) ユーンヘル(fl) クレソン(cl) スヴェドルンド指揮 イェテボリ交響楽団
Chandos CHSA5064

シャンドスのヴァインベルク・シリーズの新譜。今回はこれまでと違い,演奏者が北欧勢になり,SACD(ハイブリッド)になった(値段が高い…)。

4曲とも20分前後,3楽章形式,比較的小規模なオーケストラという点は共通しているが,作曲時期は異なる。チェロの協奏的作品「幻想曲」は,1951-53年の作品。哀愁たっぷりのテーマがたまらない。ヴァインベルク入門としてはかなりお勧めの1曲。フルート協奏曲第1番は,1961年の作品。交響曲の5番あたりと響きはよく似ていて,息もつかせぬ急速楽章と深々とした歌の緩徐楽章のまとまりのある秀作。クラリネット協奏曲は,1970年の作品。しつこい二音反復はニールセンの協奏曲を思わせる。おどけた終楽章が面白い。フルート協奏曲第2番は,1987年の最晩年の作品。ヴァインベルクの1980年代以降の作品(交響曲から室内交響曲に切り替えた時期)は,どれもそれまでの情念が消えて,達観した老作曲家らしいサラッとした作品が多いように思うが,この曲もその方向でリラックスして楽しめる作品。

演奏者は,イェテボリのオケと首席奏者達。ソリストの確かな技術と透明感と切れ味のあるオケの弦楽器の響きで,満足できる演奏に仕上がっている。

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ケーゲルのショスタコ15

Weitblick_sss00392ショスタコーヴィチ 交響曲第15番
ケーゲル指揮 ライプツィヒ放送交響楽団
WEITBLICK SSS0039-2

ケーゲルの中で手に入れそこなっていた15番を店頭で見つけたので、購入。これで分売のものが全部揃った(こんなことならはじめからボックスを買っておけば良かったのだが。画像はボックスです)。

この15番の録音は、1972年。初演から間もないころの演奏。ケーゲルのショスタコーヴィチはどれもハイレベルだが、これも期待以上の素晴らしい演奏。ピシピシしたテンポ設定はケーゲルならではで、この難曲を見事にまとめている。弦楽器のやわらかくも透明感のある音が随所でこの曲の美しさを明らかにしている。例えば、4楽章のクライマックス直前のホルン・ソロに絡む弦楽器の絶妙な絡み合い。また、オケの個人の技量はそれほどでもないはずなのに、全合奏で強奏するときのまとまりのある一撃など、指揮者の力だろう。ソロの細かいミスをつつけばきりがないが、2楽章のトロンボーンの心のこもった歌など、ほかの演奏には代えがたい魅力。

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ビシュコフのショスタコーヴィチ

Av2137ショスタコーヴィチ 交響曲第10番 グラナート 管弦楽のための歌と舞曲「テアトルム・ベスティアルム」
ビシュコフ指揮 ケルンWDR放送交響楽団
Avie AV2137

最近NMLがどんどん充実してきている。先月は,ondineやsimaxまで加わって,もう何でもあり状態である(あとはHMFとnaïveが欲しいな)。Avieも割と最近加わったレーベルで,ちょっとのぞいてみたら,ビシュコフのショスタコがあった。あまり期待もせずに8番を聴いてみたところ,意外なことにとても良い演奏だった(ちなみにこの人の8番にはベルリン・フィルとのどうしようもない録音があった)ので,最新の10番を購入。

やはりこの10番もハイレベルな演奏だ。決してスマートな演奏ではなく,ゴツゴツした手作り感のある演奏。弦楽器は,安定した美しい音色で悲劇的な音響を作り出しているし,木管楽器には鋭いアクセントが与えられ,金管楽器も奏者の限界まで音を鳴らしきっている。特に,弦楽器陣の彫りの深い歌と,4楽章などで木管楽器が聴かせる怪鳥の叫びのような音色は聴きもの。少し鈍くさい打楽器の音もこの演奏では大いにプラス。なお,併録のグラナートの曲は,がちゃがちゃした現代音楽。ライヴで聴いたら面白いかも。

ビシュコフは,ここのオケに首席を1997年から務めているというから,もう10年になる。ここ最近はこうした長期政権は珍しいのではないか。オケからも聴衆からも支持されている証左であろう。録音界の表舞台から姿を消していたビシュコフだが,着実に成長を遂げているようだ。今後も期待。

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ヴァインベルクのヴァイオリン・ソナタ

Haenssler_cd93190ヴァインベルク ヴァイオリン・ソナタ第3番 第4番 ショスタコーヴィチ ヴァイオリン・ソナタ
コーリャ・ブラッハー(vn) ヤッシャ・ネムツォフ(p)
Haenssler CD.93.190

Haensslerのヴァインベルク・シリーズより。

ここに収められたヴァインベルクのヴァイオリン・ソナタは,いずれも1947年の作曲されたもの。第3番は,儚げで美しいメロディが印象的。割と規模の大きい第3楽章の展開手法こそショスタコーヴィチを思わせるが,そこに流れる音楽はヴァインベルクのユダヤの響き。第4番は,幻想的なアダージョ(メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」との類似の指摘もある)と強烈なアレグロの対比が凄い。どちらの曲もシリアスだが,充実している。

ショスタコーヴィチの晩年の傑作ソナタは,改めて紹介するまでもない曲(いつも私基準ですいません)。ここのライナーノートに面白いことが書いてあって,作曲家協会でのこの曲の初演(非公式のお披露目か)は,オイストラフとヴァインベルクによるものだったという。確かに,ヴァインベルクはショスタコーヴィチの語法を完璧に理解している一人だっただろうし,ショスタコーヴィチもそれを認めていたということだろう。

ブラッハーは,柔軟な音楽作りで,ヴァインベルクのユダヤっぽいメロディをうまく歌っている。ショスタコーヴィチも悪くはないが,少し緩い印象。

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