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ボリス・チャイコフスキーの弦楽四重奏曲

Nfpma9964ボリス・チャイコフスキー 弦楽四重奏曲全集(1番~6番)
Northern Flowers NFPMA9964

全国多分10人くらいのボリチャイ・ファンが一日千秋の思いで待っていたボリチャイ・カルテット全集,ようやく到着。

第1番は,1954年の作品。典型的な前期ボリチャイのスタイルで,定石通りの急緩急の3楽章構成とロシア民謡的な主題の明快で楽しい作品。第2楽章の胸の締め付けられるような美しい旋律と対位法的な4つの楽器の対話は,聴きもの。第3楽章の控えめなユーモアのセンスもたまらない。第2番は,1961年の作品。初期から中期への過渡期的な作品か。ソナタ形式の第1楽章にスケルツォと緩徐楽章をはさんでフィナーレへ引き継がれる伝統的な分かりやすい4楽章構成だが,第1番に比べると主題がかなり抽象的になっている。全編に貫かれている不機嫌な焦燥感が不気味。救いのない鬱屈した作品。第3番は,1967年の作品。交響曲第2番と同じ年の作品で,完全にボリチャイ独自の語法で書かれた作品。ヒタヒタとした刻みが不気味な第1楽章,チェロとヴァイオリンのレチタティーヴォからなる第2楽章,静謐な響きが連続する第3楽章と第4楽章,わずかに光の差し込んでくる第5楽章,それまでの響きがコラージュのように交錯する第6楽章。この作品は,1964年の”While The Front Is Defensive”という映画のサウンドトラックをもとに構成されたという。悲劇的な響きはそのためか。全6楽章ほぼ全編が緩徐楽章の静謐な響きで満たされているこの曲は,ショスタコーヴィチの第15番の弦楽四重奏曲(1974)に大きな影響を与えていることも指摘されている。

第4番は,1972年の作品。力強いリズム主題が万華鏡のように変容されていく,いかにもボリチャイらしい第1楽章。第2楽章の透明で美しいモノローグのあと突然あらわれるリズミカルで愉快なテーマは過去を懐かしむような不思議な気分に囚われる。第3楽章は,ゆったりしたテンポで書かれた緊張感の強いフィナーレ。後年のセバストポリ交響曲(1980)を想起させるヴァイオリンの分散和音の動きの中に第1楽章と第2楽章の断片を響かせながら幕を閉じる。第5番は,1974年の作品。続く第6番とともに15分ほどの単一楽章の作品だが,その中には多楽章的な要素が盛り込まれており,この単一楽章化はちょうどシベリウスの第7番の交響曲を連想させる。冒頭の強烈な和音と,力強い伴奏音型,すぐにヴァイオリンによって提示される歌謡的な下降音型を中心に,ノスタルジックな響きが次々と展開していく。第6番は,1976年の作品。冒頭の力強いテーマとコラール風に奏されるエレジーとの2つのテーマが交錯する。第5番と規模も近い単一楽章の曲だが,よりダイナミックで彫りが深い。全てを断ち切るかのような力強い終止も印象的。

6曲ともボリチャイの個性が存分に発揮された優れた作品ばかり。特に後半3曲は,前人未踏の領域に達している傑作群。演奏も,おそらく今後もこれらの曲のスタンダードとなっていくであろう,共感に溢れた充実したもの。必聴ものです。

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ナチュラル・ホルンによるブラームスのホルン・トリオ

Hmc901981ブラームス ホルン・トリオ ヴァイオリン・ソナタ第1番 幻想曲集op.116
ファウスト(vn) ズヴァールト(hr) メルニコフ(p)
HMC901981

ハルモニア・ムンディのセールより。

まずはホルン・トリオだが,これは衝撃的な録音。作曲者の指定通り,ナチュラル・ホルンを使用しての演奏。ヴァイオリンもガット弦を使用し,ピアノも当時のものを使用するなど,ブラームスの時代の響きにこだわったもの。そこから出てくる3人の奏者の絡み合い,バランスが絶妙という他ない。ホルンのゲシュトップト音とヴァイオリンの音が重なるハーモニーの美しさなど,ちょっと聴く前には想像できないものだったし,ホルンの陰影のある豊かな表情に慣れてしまうと,もはや普通のヴァルブ付ホルンの演奏は聴けなくなってしまいそう。演奏者達の確かな技術とそれぞれの楽器の特性を十全に生かした的確な表現。この曲の深さを思い知った。

ヴァイオリン・ソナタは,個人的に大好きな曲で,特に冒頭のメロディはブラームスの名旋律の中でも屈指のものだと思う。ファウストの清潔で繊細な表現とメルニコフのピアノとの見事なバランスが素晴らしい。メルニコフによる幻想曲集は,響きすぎないピアノの音色を生かし,晩年のブラームスの世界の魅力を伝えてくれる。

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アルカント・カルテットのバルトーク

Hmc901963バルトーク 弦楽四重奏曲第5番 第6番
アルカント・カルテット
Harmonia Mundi HMC901963

ハルモニア・ムンディのセールより。

このカルテット,初めて聴くが,あまり話題になったことはないのだろうか。恐ろしいほどのスーパー・カルテットだ。ケラス,ツィンマーマンといった凄いメンバーを見れば,ただ者ではないことは想像できるが,そこから出てくる音はまさに革命的。まるで大オーケストラを聴いているかのような驚異的な安定感とダイナミックレンジの広さ,さらに音色の多彩さ。いわゆるソリスト集団系のカルテットは,個性と個性のぶつかり合いを楽しむことが多いが,ここは室内楽経験の豊富な奏者達だけに,カルテットが一つの楽器のように自在に響く。バルトークのカルテットをここまで豊かな音楽性をもって聴かせてくれる例は多くはないはず。驚異のカルテットの今後にも注目だ。

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トヴェイトの歌曲集

Psc1223トヴェイト アスラウグ・ヴォーの詩による14の歌 オラヴ・H・ハウゲの詩 アスラウグ・ロースター・リュグレの詩
ペール・ヴォレスタード (バリトン) シーグムン・イェルセット (ピアノ)
Simax PSC1223


Simaxから出たトヴェイトの久しぶりの新譜。

今回紹介されるのは,トヴェイトが1964年から66年にかけて作曲した歌曲。ここでテキストとなっている3人に詩人は,いずれも西ノルウェーの詩人。詩の内容は,素朴に自然の様子を映し出したものが多く,文学者としての詩人というより,地元の語り部といった趣か。トヴェイトは,こうした詩にインスピレーションを受けて,メロディを付けた。いずれもその場でふっと思い浮かべただけのような,シンプルなもの。そこにそこはかとなく郷愁が漂うのがトヴェイトらしいところ。雰囲気としては,代表作のハルダンゲル民謡の組曲あたりに近い。尽きることなくメロディがわき出したことから「ノルウェーの涸れることのない滝」と言われたトヴェイトらしい作品となっている。

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