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マレの幻想的小品組曲集

29マラン・マレ 三重奏のための幻想的小品組曲集~組曲ニ長調 組曲ト短調 組曲ハ長調
アンサンブル・ルベル

DHM箱29枚目。

ヴィオール奏者として歴史に名を残しているマレであるが、ここに収められているのは、2つのヴァイオリンと通奏低音(ここではヴィオール+クラヴサン)による三重奏曲集。3曲の組曲は、いずれも2~3分の短い舞曲を7、8曲連ねた構成からなる。冒頭からサッと陽光が降り注ぐかのような華やかで輝かしい響き。曲によって表情が次から次へと変わるのが面白くて、全く飽きることがない。いつまでも浸っていたいと思わせる曲。

先日DHM箱でリュリを聴いたとき、どうもフランスバロックは苦手かも、と書いたが、マレとは波長がピタリと合うようだ。リュリとマレは、同じルイ14世の寵愛を受けた同時代人だが、どんな関係だったのだろうか。調べてみると面白そう。

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J.S.バッハ以前のカントル達の音楽

28クニュプファー Ach Herr, strafe mich nicht  Es haben mir die Hoffärtigen シェッレ Das ist mir lieb Ach, mein herzliebes Jesulein Barmherzig und gnädig ist der Herr Aus der Tieffen rufe ich, Herr, zu dir クーナウ Gott, sei mir gnädig nach deiner Güte O heilige Zeit
コンラート・ユングヘーネル(指揮&リュート) カントゥス・ケルン

DHM箱28枚目。

J.S.バッハがライプツィヒの聖トマス教会のカントル(音楽監督)を務めたのが、1723年から1750年。ここに収録されている3人の作曲家は、バッハ以前に同職にあった作曲家である。クニュプファー(1633-1676、在任1657-1676)、シェッレ(1648-1701、在任1677-1701)、クーナウ(1660-1722、在任1701-1722)ということで、バッハの前100年を俯瞰できる面白い企画。

バッハ自体をあまりきちんと聴いていない私に語れることはあまりないのだが、「バッハは一日にしてならず」といったところか。確かに時代が進むにつれ、バッハに近づいてきているように聴こえる。もちろん、古い作品が悪いわけではなく、シンプルでも美しい、聴いていて気持ちの良い曲ばかり。ユングへーネルのアンサンブルは、声楽1パート1人という独自のこだわりをもっているらしいが、透明感のある響きがスッと心に入ってくる素晴らしい演奏。

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シチェドリンの近作

H93195シチェドリン ピアノ・テルツェット 3つの楽しい小品 チェロ・ソナタ
D.シトコヴェツキー(vn) ゲリンガス(vc) ネムツォフ,シチェドリン(p)
Haenssler CD.93.195

シチェドリンの室内楽曲の近作を集めた1枚。

旧ソ連作曲界の重鎮であったシチェドリン(1932-)だが,まだまだ元気で頑張っているらしく,このCDでも達者なピアノも聴ける。作曲ももちろん元気に続けていて,このCDでは最近の作品を聴くことができる。ピアノ・テルツェットは,1995年の作品で,ピアノ・トリオの編成。「草上の昼食」「ロシア風パレード」と表題のついた対照的な2楽章からなる作品で,名手らによる演奏効果を楽しむような面白い作品。楽しい小品は,ピアノ小品の旧作から3曲を選んで,ピアノ・トリオに編曲したもの。シチェドリンのユーモラスな面が聴ける。最後のチェロ・ソナタ(1997)が,シリアスな作品で,例えば2楽章の虚無的な雰囲気,3楽章の悲痛な歌,美しい響きなど,聴き所は多い。

さすがはシチェドリンと思わせるハイレベルな作品集なのだが,もう1ランク突き抜ける凄い曲を書いて欲しいなあ,と思わなくもない。最晩年のショスタコとは言わないまでも,最晩年のシュニトケのレベルくらいには行って欲しい。この1枚だけで判断するのも失礼な話だけど,「アンナ・カレーニナ」が大好きな私は,まだまだ期待していますよ(本人に届くはずもないが)。

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マショーのノートルダム・ミサ曲

Untitled2マショー ノートルダム・ミサ曲 ペロティヌス グラドゥアーレ『支配者らは集まりて』 『地上のすべての国々は』 『アレルヤ,乙女マリアのほまれある御誕生』 シャンスリエ コンドゥクトゥス『言いたまえ、キリストの真実よ』 作者不詳 コンドゥクトゥス『あわれみ深きわれらの父よ』 『アレルヤ,よみがえりたまいしキリストは』 『クラウズラ:死は』
アルフレッド・デラー(指揮) デラー・コンソート コレギウム・アウレウム団員

DHM箱27枚目。

14世紀のフランスの作曲家,ギョーム・ド・マショーの代表作をメインにした1枚。ノートルダム・ミサ曲は,最古の通作ミサ曲であり,アルス・ノヴァの技法が駆使されているとのことであるが,確かに,あちこちからこだまするような複雑で不思議な響き。これに対してペロティヌスは,12世紀から13世紀にかけて活躍した人で,ノートルダム楽派の代表的な存在とされ,シャンスリエはその友達。オルガヌムという当時の不思議な技法が聴ける。こちらはマショーに比べるとずっと単純で素直。

演奏は,デラー・コンソートというところだが,なんと1960年の古い録音。現在のきれいな響きのアンサンブルではなく,生々しい,生命力にあふれた音楽。コレギウム・アウレウムの団員も多少の音程のずれは気にせずブカブカ吹いていて却って気持ちいい。民族音楽を聴いているかのよう。昔の響きの再現として優れているのかどうかは分からないが,聴いていてとても楽しいので,これはこれでよし。


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リュリのディヴェルティスマン集

Untitledリュリ ディヴェルティスマン集
スキップ・センペ(指揮&cemb) カプリッチョ・ストラヴァガンテ

DHM箱26枚目。

フランス・バロックの大家リュリ(1632-1687)のディヴェルティスマン集。リュリというと,指揮棒で亡くなった人というイメージしかなかったのだが,ルイ14世の庇護を受けてフランスの宮廷で大活躍した音楽家であるようだ(wiki参照)。ディヴェルティスマンというのは,バレエやオペラの途中に挿入されるストーリーとは関係ない音楽のこと。そもそもの意味は「気晴らし」というもので,ここに収められているのは,2,3分くらいの親しみやすい軽めの音楽が15曲ほど。このボックスではおなじみのセンペらの演奏で,おそらくいい演奏なのだろうが,フランス・バロックがそういうものなのかどうなのか,どうもフニャフニャした響きが私は馴染めない。もう少し寝かしてみます。

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マルティヌーの室内楽曲集

Mdg3041439マルティヌー 調理場のレビュー 六重奏曲 4つのマドリガル 九重奏曲
アンサンブル・ヴィラ・ムジカ
MD+G 304-1439-2

管楽器を中心としたマルティヌーの室内楽曲を集めた作品。

調理場のレビュー(1927)と六重奏曲(1929)は,どちらも当時のジャズ・テイストをふんだんに盛り込んだ作品。今聴くと,ひねりの効いた軽音楽といった趣で,とても楽しめる。イギリスのマドリガルに入れ込んでいたマルティヌーは,マドリガルという曲をたくさん作曲しているが,この4つのマドリガル(1937)は,オーボエ,クラリネット,ファゴットのための作品。3声が抽象的に絡み合っていくなんとも不思議な曲。九重奏曲(1959)はマルティヌーの最後の作品。時折顔を出す可愛らしいメロディなんか,うん,新古典主義もいいもんだ,となんか納得してしまう。美しい名曲ですね。

アンサンブル・ヴィラ・ムジカは,ドイツのオケの首席クラスが集まった名技集団。ここでも,ゴリツキ,トゥーネマン,ヴラトコヴィチら,楽器名を省いても通じるビッグ・ネームが参加していて,見事なアンサンブルを堪能できる。

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周辺の人たち

<作曲家>
ドミトリ・ショスタコーヴィチ
ヴィサリオン・シェバリーン
ニコライ・ミャスコフスキー
モイセイ・ヴァインベルク
アンドレイ・ゴロヴィン
ピョートル・クリモフ
ユーリ・アブドーコフ

<演奏家>

アレクサンドル・ガウク(1893-1963)指揮者
若きボリス・チャイコフスキーを高く評価していた。ロシア民謡の主題による幻想曲のコンサート初演(1951),弦楽のためのシンフォニエッタの初演(1954),スラヴ・ラプソディのコンサート初演(1956)を担当し,イギリス民謡によるカプリッチョをモスクワ放送に推薦,このラジオ初演(1954)も担当している。

サムイル・サモスード(1884-1964)指揮者
ロシア民謡の主題による幻想曲のラジオ初演(1951),スラヴ・ラプソディのラジオ初演(1952)を担当。スラヴ・ラプソディが気に入ったらしく,モスクワ放送の幼児部で働いていたボリス・チャイコフスキーの妻ヤニーナ(職場結婚か?)のところにわざわざ出向き,「君の旦那さんは将来大物になるぞ。」と言いにきたらしい。

エフゲニ・ムラヴィンスキー(1903-1988)指揮者
1947年作曲の交響曲第1番は,ショスタコーヴィチの計らいでムラヴィンスキーによる初演が準備されていたというが,それっきりだったのかな。ちなみに交響曲第1番は,1962年にコンドラシンによって初演されている。

キリル・コンドラシン
ルドルフ・バルシャイ
エドヴァルド・セーロフ
ウラディーミル・フェドセーエフ

ダヴィド・オイストラフ
イーゴリ・オイストラフ
ヴィクトル・ピカイゼン
ムスティラフ・ロストロポーヴィチ
ボロディン弦楽四重奏団
プロコフィエフ弦楽四重奏団
レフ・オボーリン

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交響詩「未成年」(1984)

1 曲目について

ボリス・チャイコフスキーは,1983年,ドストエフスキー原作の映画「未成年」のための音楽を作曲する。ボリス・チャイコフスキーは,その過程でいたくドストエフスキーの世界観,人間観に感銘を受けたらしく,映画で用いた主題を使って,管弦楽作品を作曲する。タイトルに「交響詩」としたものの,正確には,「ドストエフスキーの小説の印象に基づく管弦楽のための詩」である。30分を超える作品だが,話の筋を追ったものではない。主人公の主題を用いてドストエフスキーの人間観を表現しようとしたものと言ってよいだろうか。編成は,通常のオーケストラに加えて,ヴィオラ・ダモーレ,ピアノ,ハープシコード,リコーダー,それにグスリというロシアの民族楽器がソロとして加わる特殊なもの。

簡単な弦楽器の導入に続いて,ピアノの急速な伴奏にのった主題Aがヴィオラ・ダモーレのソロで示される。3連符の下降音型が印象的な悲哀に満ちたもの。不気味なオーケストラによる経過の後,フルートが主題Aを再現し,ヴィオラ・ダモーレが優しさにあふれる主題Bを奏でる。主題Aとは対照的な上昇音型によるもの。オーケストラの副次的な主題,主題Bの再現の後,リコーダーとグスリによって,息の長く,静かで美しい主題Cが現れる。オーケストラが少し発展させた後,ハープシコードの厳かな伴奏の上に,ピアノで主題Aが歌われるあたりからが,展開部か。展開部とは言っても,主題が絡み合って発展していくというよりも,主題の断片が現れては消え,現われては消え,という独特な世界。低弦が主題Aを静かにゆっくりと奏でた後,ヴィオラ・ダモーレが主題Aを再現し,再現部に入る。再現部では,主題Bは現れず,主題Aの後半に主題Cが絡んでいくスタイルとなる。この主題Aと主題Cの絡み合いが実に美しく,この曲の聴きどころ。悲壮感のある主題Aを主題Cが包み込んで昇華させていく。主題Cがヴァイオリンソロで優しく奏でられた後,全合奏の長和音で締めくくる。

2 録音情報

フェドセーエフ盤2種がある(Relief,Melodya)。Releif盤は,初演から半年後のライヴで,Merodya盤は1989年のスタジオ録音。Relief盤も十分良い演奏だがライヴのためキズは多い。Melodya盤は未入手だが,早く聴いてみたいところ。

3 データ

初演 1985年3月23日モスクワ フェドセーエフ指揮 モスクワ放送交響楽団


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イギリスの主題によるカプリッチョ(1954)

1 曲目について

1950年代,ボリス・チャイコフスキーは,委嘱を受けていくつかの軽めのオーケストラ曲を作曲しているが,その中でも,もっとも親しみやすいのが,このイギリスの主題によるカプリッチョ。モスクワ放送の海外部からの依頼で作曲された。モスクワ放送にボリス・チャイコフスキーを推したのはガウクだったらしい。

8分ほどの短い曲。まず,クラリネットによるパストラル風の主題。テンポが上がってファゴットによるおどけた主題,そして木管楽器によるミッキーマウス・マーチ風の楽しい主題,フルートを中心とするすばしっこい主題,いずれもイングランドやスコットランドの民謡から取られていると思われるが,一度聴けばすぐに耳になじむ単純なメロディ。これを実に見事な展開とオーケストレーションで料理して盛り上げていく。このあたりは,センスが良いとしか言いようがない。オーケストラのショーピースとしては,実によくできた作品。1950年代のソ連では,こんな曲が音の悪いラジオから流れて,聴き手を楽しませていたのだろうか。

2 録音情報

録音は,古いガウク盤(Northern Flowers)とフェドセーエフ盤(Relief)がある。一般的には,録音も新しく演奏もこなれているフェドセーエフ盤がお勧めだが,古き良き時代のロシア・オケの響きを楽しめるガウク盤もすごい演奏。

3 データ

初演 1954年 ガウク指揮 モスクワ放送交響楽団

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チェロ・ソナタ(1957)

1 作品について

1950年代の伝統的な語法による時代の作品の中でも傑作の一つで録音も多い作品。1957年の作曲で,音楽院時代にともにショスタコーヴィチに学んだ盟友ヴァインベルクに献呈されている。

第1楽章アレグロ・ノン・トロッポ。冒頭のピアノ,続いてチェロで奏でられるサッと風が通り過ぎるような細かい動きの第1主題,続いてチェロの高音によって歌われる広がりのあるエレジーが第2主題。提示部の繰り返しも行われる律儀なソナタ形式。力強いピアノの和音で始まる展開部の盛り上がり方は師ショスタコーヴィチの手法を想起させる。再現部のうち,第2主題の再現のところが個人的には大好きで,フッと長和音が入ってきて,刹那的に慰められるような感じ(これもショスタコがたまにやる)。

第2楽章ラルゴ。変奏曲の形式をとる。いかにもロシア的な息の長い旋律で,悲しみと慰めが入り混じったようなメロディ。主題の提示のあと,第1変奏は,ほぼ主題の繰り返し。第2変奏は,チェロのピチカートの上にピアノが歌う。第3変奏は,ピアノとチェロのカノン。第4変奏は,ピアノの3連符の伴奏で少し動きが出るが,すぐに静まりチェロの高音へ消え,続く第3楽章へ。

第3楽章アンダンテ。ソナタ形式風の楽章。前楽章のチェロのフラジオからそのまま第3楽章の主題が奏でられ,すぐに速いテンポに変わる。冒頭の第1主題とアレグロに入ってからの付点のリズムの第2主題に第1主題から発展した特徴的なリズムのフレーズが幾度となく変形され挿入され,展開していく。頂点を築いたあと,徐々に静まっていき,テンポもゆっくりになっていき,やがて,第1主題が大きくなって戻ってきて,何度も挿入されたリズムをチェロが力強く奏して締めくくる。

2 録音情報

古い録音では,ロストロポーヴィチ/作曲者盤(Melodya),ヴァシリエワ/作曲者盤(Russian Disc),新しい録音では,ルーディン/ブティル盤(Boheme),モーザー/リヴィニウス盤(Haenssler)がある。どれも甲乙つけがたい立派な演奏。どれか一つと言えば,録音の良さに加え,カップリングでボリス・チャイコフスキーの弟子達の曲が聴けるルーディン盤か。

3 データ

被献呈者 ヴァインベルク
初演 1958年3月2日 ロストロポーヴィチ(vc) 作曲者(p)

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ボリス・チャイコフスキーの生涯

1 作曲家への道

ボリス・チャイコフスキーは,1925年9月10日,モスクワ生まれ。父親は統計学と経済地理学の専門家で,アマチュアのヴァイオリン弾き。母親は医者で,母親が強く音楽家への道を勧めたらしい。芸術好きで学者肌の両親。幼少時は、しっかりした家庭の中で、恵まれて育ったのだろうか。ただ、父親を15歳の時に亡くしているから、それからは苦労もあったかも。

9歳の時にグネーシン音楽学校に入り,アレクサンドラ・ゴロヴィナ,エレナ・F・グネーシナ(音楽院の創設者一族ですね)らにピアノや作曲を学び、さらにグネーシン音楽学校の特別過程にすすんでシェバリーンらに作曲を学ぶ。1943年,18歳のときに、モスクワ音楽院に進み,そこでオボーリンにピアノ、シェバリーン,ショスタコーヴィチ,ミャスコフスキーといった錚々たるメンバーに作曲を学ぶ。当時のソ連音楽界のエリート街道をひた走っている感じ。

転機が訪れるのは、1948年のジダーノフ批判。師ショスタコーヴィチは教職から追放され、そこで学んでいた生徒達も「汚染された」との烙印を押されてしまう。ショスタコーヴィチの後押しで予定されていたムラヴィンスキー指揮による交響曲第1番(1947)の初演の予定もボツ。その後、ミャスコフスキーのクラスに移り、1949年に一応卒業するものの音楽エリートの道は閉ざされてしまう。

2 第1期 ~ 伝統的スタイルの時代

とは言え食べていかなければならないので、就職したのはラジオ局。どんな部署で仕事をしていたのかよく分からないが、片手間に作曲の仕事もはじめる。スラヴの主題による幻想曲(1950)やスラヴ狂詩曲(1951)といった一般受けするオーケストラ作品はこの時期のもの。併せてラジオドラマのための音楽もいくつか書き始めている。こうした作品の評判がなかなか良かったのだろう、ボリス・チャイコフスキーは1952年にラジオ局を辞め、作曲家として一本立ちする。

この後も、生計のため、ラジオやテレビ,映画のための音楽を量産していくが、その傍らで室内楽を中心に、純クラシックの作品も書き始める。ピアノ三重奏曲(1953),弦楽のためのシンフォニエッタ(1953),チェロ・ソナタ(1957),など、ロシア伝統の抒情性を大切にした気品のある素敵な作品が次々と生み出されていく。チェロ・ソナタはロストロポーヴィチによって初演されるなど、有力な演奏家ともつながりを持つようになり,人気若手作曲家として評価が確立していく。

3 第2期 ~ 前衛の時代

作風をガラッと変えるのが,ピアノ五重奏曲(1962)から。それまでの伝統的で分かりやすい作風から,前衛的で抽象的な作風に突然変わる。この変化は,当時のソ連音楽界の縛りが緩んできたからだろう。ショスタコーヴィチが十二音技法に接近した時期とも重なり,シチェドリンやシュニトケ,ティシチェンコといったボリス・チャイコフスキーよりも一回り下の世代が斬新な作品を発表してきた時期でもある。ボリス・チャイコフスキーもそうした環境の下,ようやくやりたいことができる,といった感じで,チェロ協奏曲(1964),室内交響曲(1967),ヴァイオリン協奏曲(1969)など,独自の音楽を繰り広げる。中でも交響曲第2番(1967)は,ソ連国家賞(少し前のスターリン賞だ)を獲得し,ソ連作曲界でも盤石の評価を得ることとなる。

4 第3期 ~ ロマンとの両立

1970年代に入ると,それまでの前衛的な作風とロマン派的な抒情性とを並立,融合させ,また独自の音楽を生み出していく。例えば,ピアノ協奏曲(1971),弦楽四重奏曲第5番(1974),第6番(1976)といった作品では,短い動機を無限に変容させるボリス・チャイコフスキー独特の技法と,民族的で抒情的なメロディが絶妙に併存し,新たな表現を獲得している。なお,ドレスデンの国立歌劇場からの委嘱作,主題と8つの変奏(1973)が作曲されたのもこの時期で,国際的な名声も高まっていく。

5 第4期 ~ 晩年,単純化の時代

弦楽四重奏曲第6番を書いたあと,4年間の沈黙の時期を経て,1980年,セバストポリ交響曲を発表する。この作品を転機として,1980年以降の作品は,より単純性,透明性が高まり,無駄をそぎ落とした響きを指向するようになる。管弦楽のための音楽(1987),ハープを伴った交響曲(1993)といった作品がこの時期のもの。ただ,最晩年には,作曲の意欲が落ちたらしく,作品数も少なくなる。公的には1985年に人民芸術家に選ばれ,1989年からは,古巣のグネーシン音楽学校で教職の仕事に力を入れるようになる。

1996年2月7日にモスクワで死去。

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ピアノ協奏曲(1971)

1 曲目について

60年代に新たな響きを作り出していったボリス・チャイコフスキーであるが,70年代のこの作品のあたりから,ロマン回帰,あるいはロマンとの融合のような方向を見せ始める。この作品の第2楽章で聴かれるような明確な歌謡主題は,60年代の作品では影を潜めていたし,第5楽章も技法的には60年代の作品と変わらないが,表現されているものは,かなり感情に直接的に訴えるものに変わってきていると思うのだが,どうだろうか。オーケストラは,弦楽合奏と2本のホルン,打楽器という変則的な編成。独奏ピアノはほぼ休みなく動き回るが,打楽器的な音型を要求される場面が多く,ヴィルトゥオーゾ的な面は薄い。

全5楽章からなる組曲風の構成。
第1楽章は,衝撃的な同音反復からなる強烈な印象を残すトッカータ風のアレグロ楽章。冒頭からひたすら同じ音をたたき続けるハイテンションなピアノ。徐々に周囲が絡んできて,後半ホルンが加わるあたりからは手がつけられないほど熱い展開。幕切れも実に鮮やか。最後までついて来られる人は最高のカタルシスを得られるはず。
第2楽章は,うって変わって静かな歌心溢れる抒情的な楽章。この楽章で聴かれるような明確で平易な抒情性は,60年代の作品では封印されていたが,ここで堂々の復活。コントラバスの伴奏に乗って流れるように弾かれる優しい主題がA主題。ピアノの低音で提示され,ホルンが高らかに歌い上げる力強い主題がB主題。ABABの単純な構成だが,後半のABはピアノの主題に弦楽器のソロの対話によるもので,その美しさは感涙もの。B主題がピアノの最高音域に消えていく瞬間はたまりません。
第3楽章は,ボーリング球が弾むような感じの,比較的遅いテンポながら力強い曲。はじめにピアノで示される力強いA主題と続いて弦楽器によって示される単純な音型のB主題とが交錯する。
第4楽章は,急速な楽章。冒頭ホルンで示される付点に特徴のあるリズムA主題とピアノで示される流れるような主題Bとが交互に現れる(B主題の伴奏の音型がカッコイイ)が,後半は静まり,第5楽章へのつなぎの役割を果たす。
第5楽章は,全てが消え行くような音楽。冒頭でピアノで示された動機が,次々に形を変えながら,徐々に静まって行く。時々添えられる弦楽器の何気ない伴奏が実に美しくて感動的。

2 録音情報

録音は,作曲者/フェドセーエフ盤(Relief)とソロヴィエヴァ/ミンバエフ盤(Naxos)がある。オーケストラの編成が作曲者盤の方が大きく,受ける印象はだいぶ違う。勢いのある作曲者盤に対して丁寧なソロヴィエヴァ盤。個人的にはホルンが圧倒的な表現力を聴かせる作曲者盤をお勧め。

3 データ

初演:1971年9月21日モスクワ 作曲者(p) バルシャイ指揮 モスクワ室内管弦楽団

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作品一覧

交響曲

管弦楽曲
イギリスの主題によるカプリッチョ(1954)
交響詩「未成年」(1984)

協奏曲
ピアノ協奏曲(1971)

室内楽曲
チェロ・ソナタ(1957)

ピアノ曲

映画音楽


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